marraskuu 06, 2004

■メガネ(仮題)1

 激痛で目が覚めた。つけっぱなしのテレビから声が聞こえる。粘度と硬度の程よい葛きりみたいな声。肌が白くて八重歯がめだつキャスターの、決めゼリフだ。「これから、お休みになる方も、お目覚めの方も、時刻は4時になりました。」
 この声は天国にも地獄にもなる。涙ながらに唸りながら夜を明かした日には、明日が迫っていることへの冷徹な宣告。いきおいで手が進んだ日には、夜の民へのご褒美。この日は珍しく眠りこけてしまい、何年かぶりに「お目覚めの方」になった。集中の深さ・長さに翳りが見え始めてきたようだ。いつも太陽から逃げている罰だろうか。少なくとも、内臓は貧弱になった。
 ヒトは見聞き触れたもので己を創像する。なんでも見てやろうという青年の志が危なっかしく無礼でも、若さや他の社会的な理由から許されるという甘えの下にできあがるとしたら、それは尊大な自己拡張の欲望に過ぎない。しかしそんな不躾で世界は複製されつづけていて、それをまた複製して、ヒトはできあがる。だから複製が酷いものばかりだと、酷いヒトしかできあがらない。この日、僕の胃袋は、それを拒んだのだ。
 4時29分、もう一度、葛きりが聞こえた。今度は、いつものように前者を選んだ。

投稿者 shoshirock : 02:59 PM | コメント (1835)